「出張先では基本的に屋根仕事以外にやることがないので、自然と屋根と向き合う時間が増えるんです」
そう語るのは、茅葺職人として日々修行に励む若手社員たち。
会社の拠点である京都府南丹市・美山町は、冬になると雪深い地域となるため、積雪の少ない地域や素屋根のある現場に長期出張することが多くなります。
とはいえ、出張先でも予期せぬ積雪に見舞われ、雪かきから一日が始まる…そんな現場もあります。
出張期間中は、現場近くの一軒家で職人たちが共同生活を送ります。
先輩や、ときには応援に来てくださっている他事業所の職人さんたちとの暮らしの中で、屋根葺きの技術はもちろん、職人としての日頃の姿勢や心構えも学んでいきます。
「現場では忙しくて聞けないことも、夕食の時間に『あの納め方ってどうしてるんですか?』と自然に尋ねられるのがありがたいですね」
時には、現場では厳しく見えた先輩が、宿では気さくに話しかけてくれたり、晩酌をしながら茅葺について熱心に語っていたりすることも。
「本当に茅葺が好きなんだと実感します。そういう姿を見ると、距離がぐっと近づく気がします」
入社当初は、出張先での休日に茅葺屋根を見に行く先輩たちを「物好きだな」と感じていたという若手たち。
今では、その気持ちがよく分かるようになったといいます。
「地域によって屋根の納め方に特徴があるんです。資料は残っていても、やっぱり自分の目でいろんな角度から観察することで、現場の完成イメージが少しずつ出来上がっていきます」
また、近くで活動している他の職人さんを訪ねて、屋根について話を聞かせてもらうこともあるそうです。
“茅葺き”という共通の軸を通じて、技術だけでなく、地域とのつながりや人との関係性も広がっていきます。
「出張生活では、ごはんの時間も決まっていて、夜更かしもしづらい。自然と生活リズムが整って、時間の使い方がうまくなった気がします」
現場での作業と、生活そのものが重なり合う日々。
共同生活を通して、仲間との関係性や自分自身の成長も感じられる貴重な経験となっています。
「美山の夜は動物も出るので散歩はちょっと危ないですが(笑)、出張先では夜に散歩をして気分転換したり、地域の空気を感じたりするのが好きなんです」
決して楽な環境ばかりではない出張生活。
けれどその分だけ、茅葺と向き合う時間、人と向き合う時間が、じっくりと流れていきます。
そうした一つひとつの経験を通して、職人としての土台が少しずつ育まれていきます。