岩瀬 木美

京都市内で生まれ育った岩瀬さん。
現在は、美山町北の「かやぶきの里」集落内で、家族とともに農業を営みながら暮らしています。自宅の茅葺き屋根の軒先には、3匹のヤギたちがのんびりと過ごしており、観光客にも人気のスポットになっています。

 

岩瀬さんの祖父母は、かつて同じ美山町内の平屋地区に住んでおり、子どもの頃からこの地域を訪れる機会がありました。祖父母の自宅は茅葺き屋根ではありませんでしたが、周囲には多くの茅葺き屋根の家々があり、「立派で重厚感がある」という印象が記憶の中に刻まれているそうです。
そして、時が経つにつれて、景観の中で次第にトタンに置き換わっていく茅葺き屋根の姿には、「なんだか寂しいな」と感じていたといいます。

 

2010年頃、親戚の紹介をきっかけに「かやぶきの里」集落へ移住することになりました。最初に暮らし始めた家は茅葺きではありませんでしたが、しばらくして中野誠親方(現会長)から声をかけられ、経理を中心とした事務仕事のアルバイトとして関わるようになります。これが、現在の茅葺き屋根の住まいとのご縁につながりました。

「現在の茅葺き屋根の住居は、もともと美山茅葺の社員寮として使われていました。しかし、社員が出張で家を空けることが多く、それを気にされていた誠さんから『家を交換してくれないか』とご提案いただき、今の家に引っ越しました。年末だったこともあって、最初の印象は『とにかく寒い!』でした(笑)」

現在は薪ストーブを導入し、冬の寒さはずいぶん和らぎました。それでもやはり、冬はしっかりと冷え込みます。一方で、夏はとても涼しく、農作業を終えて帰宅し、玄関を開けたときに広がるひんやりとした空気には、今でも感動するそうです。

 

暮らしの中で取り組んでいる農業にも、茅葺きと結びついた工夫があります。屋根仕事で出た茅のくずを分けてもらい、畑の肥料として活用することで、自給的な農の循環を意識した取り組みを少しずつ始めています。
「最近は、種や肥料の値段も高騰しています。全部を自給するのは難しくても、少しでも工夫できることはやっていきたいと思っています。地域全体での茅刈りや日役(地域の共同作業)にも、できるだけ参加しています。田舎の暮らしは一人では完結しないけれど、みんなで支え合うことが強みなんだと思います」

 

そうした“循環”や“自然との調和”への意識は、岩瀬さんの趣味である手仕事にも通じています。学生時代に陶芸を学び、現在もものづくりに親しんでいますが、素材選びには変化がありました。
「陶器って、一度焼き上げてしまうと簡単に処分できないんですよね。今はしめ縄や竹細工のグループに参加しているんですけど、稲藁や竹は、万が一失敗しても土に還る。そういうところにすごく安心感があるんです」

 

また、日々一緒に働く茅葺職人たちの姿にも、深い尊敬の気持ちを抱いています。
「真夏の暑い日も、真冬の寒い日も、屋根の上で作業している皆さんを見ていると、本当に尊敬の気持ちでいっぱいになります。私は直接葺くことはできませんが、サポートできることはしていきたいという気持ちです」

 

「かやぶきの里」で暮らして10年以上。今でも車で帰宅する際、あの特徴的なカーブを曲がった瞬間に目の前に広がる茅葺きの風景に、「わあ、きれいだなあ」と思わず見とれてしまうのだそうです。「住民として、そして会社の一員として、あの風景を守っていけたらうれしいです。小さなことでも、できることを積み重ねていきたいですね」

 

 

茅葺きの家に暮らしながら、農業と手仕事、そして地域との関わりを大切に日々を紡ぐ岩瀬さんの姿は、「茅葺きとともに暮らす」ということの現代的な魅力を、静かに、しかし確かに伝えてくれます。

 

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