駒 宏樹

美山茅葺株式会社の社長を務める駒さん。
現在は家族とともに茅葺き屋根の古民家に暮らしながら、職人として、そして住人として、その魅力を日々実感しています。

 

職人の世界に入る前は、JA(農業協同組合)やトラック配送など、全く別の仕事をしていた駒さん。しかし「この先何十年と続けていく未来が想像できなかった」といいます。
同じ景色を走り続ける日々の中で、どこか物足りなさや迷いを感じていたそうです。
そんな中、配達の途中で目にする茅葺き屋根の家に自然と目を奪われることが増え、「いつか自分もこんな仕事に携わってみたい」という想いが次第に強くなっていきました。

「はっきり覚えているわけではないけれど、幼い頃に茅葺き屋根の家に住んでいた記憶が、心の原風景としてあったのかもしれません。」

 

建物としての「古民家」というよりも、「茅葺き屋根」そのものに惹かれたといいます。
26歳で職人の世界に飛び込んだ当時は、実際に茅葺き屋根の家に住んでいたわけでもなく、子どもの頃の記憶も曖昧でした。
それでも、見た目のかっこよさや、無意識に目で追ってしまうような不思議な魅力を感じていたそうです。

「言葉や数値では表せない感覚、美しさが茅葺きにはあると思います。美術品や工芸品を見て『美しい』と感じる感覚に近いのかもしれません。」

職人になってからは、身近に生えるススキを使って屋根を葺き上げる達成感や、仲間と協力して一つのものを作り上げる楽しさを実感しました。
「入社当時は同世代の職人も多く、一緒に楽しいことも辛いことも経験しながら修行したのは良い思い出です。」

そうした日々を経て、「いつかは自分も茅葺き屋根に住みたい」という想いが自然と芽生えていきます。

 

子どもが生まれ、借家が手狭に感じ始めた頃に古民家を探し始めましたが、瓦葺きの家にはあまり惹かれなかったといいます。
そんな中、以前から気になっていたトタン屋根に覆われた茅葺きの古民家の持ち主を紹介してもらい、一気に話が進みました。

「家を買った時から、トタンを外して茅葺きに葺き替えるつもりでした。引っ越したばかりで茅の確保は間に合わなかったけれど、下地竹は家の周りの竹林から自分で調達しました。」

自宅の屋根葺き替えでは、施主であり現場主任でもある立場を活かし、時間をかける部分と効率化する部分を自分で考え、さまざまな挑戦ができたと話します。

「会社として請け負う現場では、細部まで仕上げる場合もあれば、短い工期で仕上げる場合もあります。自宅の屋根はそのバランスを自分で決めて、職人として技術の引き出しを増やす経験にもなりました。」

 

実際に暮らしてみると、古民家ならではの「田の字」型の間取りが家族のコミュニケーションを生み、窓を開けたときに風が一気に抜ける感覚など、現代の住宅にはない魅力を実感しているそうです。

「室内にいても半分外にいるような感覚で、自然の中で暮らしている感じが強いです。四季を肌で感じられるのも良いところですね。縁側も景色が良くて気持ちいいです。」

 

また、茅刈りや屋根裏への茅の上げ下ろしなどの作業は子どもにも手伝ってもらっています。
「将来、この家をどうするかは子どもたちの判断に任せますが、茅葺き屋根の守り方は身につけておいてほしいんです。」

薪や茅の確保など課題はまだ多いものの、今後は自給できる量を増やし、こうした暮らしを続けていきたいと話します。

「普通の家よりやることは多いですが、そういったことも含めて茅葺き屋根で楽しく過ごす様子を子どもたちに見せてあげたい。そういう暮らしを楽しめる人なら、茅葺きの家は本当に合うと思います。」

 


「言葉や写真では伝わりにくい、あの空間でしか感じられないものがあります。実際に体験してもらえる場をつくるのが、一番説得力のあるPRだと思っています。」

離れや個室のような小規模で茅葺きを身近に感じられる提案なども模索しながら、その魅力を伝え続けていきたいと考えています。

「茅葺きの維持や薪ストーブなど、大変なことも多いです。でもそのぶん、自然への感謝や上手な付き合い方を実感できます。自然は理不尽なもの。茅葺きに関わることで、その理不尽さへの対応力も磨かれると思うんです。昔の日本人の強さは、そうした自然との付き合い方から生まれたのだと感じます。」

 

 

「まずは『茅葺きの家に住む』という選択肢を、もっと身近なものにしたい。そういう暮らしを楽しめる人が、一人でも増えてくれたら嬉しいですね。」
そんな思いを胸に、社長として、そしてひとりの住人として、駒さんは茅葺きの未来を描きます。

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