若手職人3人が世界を見て、触れて、考えたこと

2025年8月末から約1週間、当社の若手職人3人がデンマークで開かれた国際茅葺き会議(ITS)に参加しました。

※出発前の意気込みはこちらをご覧ください。

 

各国の職人や研究者、そして現地で暮らす人々との交流を通じて、ヨーロッパに息づく茅葺き文化や新しい工法に触れる貴重な機会となりました。ここでは、見学や研修を通じて彼らが感じたことをお伝えします。


海草で葺く屋根との出会い

 

デンマークのレス島には、世界的にも珍しい「海草葺き」の家が残されています。
かつて島の人々は、海岸に打ち上げられるアマモという海草を乾燥させ、屋根材として利用していました。しかし一度はアマモの疫病によって材料が絶え、技術も失われてしまいました。近年、それを復活させたのが地元の職人ヘミング氏で、現在は唯一の技術保持者となっています。

 

実際に触れてみると、乾燥して「ふわふわ」「もじゃもじゃ」した感触でした。アマモは塩分やシリカを多く含むため腐りにくく、火にも強い特性があります。模型の海草部分にライターを近づけても燃え広がらない様子には驚かされました。

 

 また、海草葺きの屋根は薄くなってくると新しいアマモを積み足して補修する仕組みで、100年から300年もつといわれています。

 

「一度は途絶えた技術を復活させ、未来へと受け継ごうとする姿勢」に、強く心を打たれました。

暮らしの中にある茅葺き

 

現地では、実際に茅葺きの家に暮らす人々の生活も見学しました。
日本で事前に調べたときは「ヨーロッパの茅葺き=高級住宅」という印象を持っていましたが、実際に見てみると少し違いました。

 

確かに敷地や建物は大きく、裕福にみえる家庭が多い印象ではありました。しかし茅葺きに限らず多くの家に庭や畑があり、庭では果樹を育てたり、鶏を飼ったりしており、国全体として「自然と調和した暮らし」が根づいているように感じられます。

 

ステータスの象徴というよりも、むしろ「農的な生活の拠点」として茅葺きが選ばれているのではないかと思わされました。

現場で見た工夫と技術

 

研修では、実際の建設現場も見学しました。印象的だったのは、システム化された施工によるスピード感です。

屋根の厚みは日本よりも薄めですが、材料の品質が安定しているため、細かな選別をせずにどんどん葺き進めていきます。その一方で、曲がった茅や短い茅はすぐにはねるなど、日本とは異なる感覚で作業を進めていることが分かりました

 

また、デンマークでは茅葺きの施工について法律上の規定があり、今回見学した現場は防火シートを用いた「セパテックオープン工法」でした。
※セパテック(Sepatec)とは、下地にガラス繊維のシートを入れて防火性能を確保する茅葺き用のシステムです。

 

伝統と現代のルールをどう両立させるか――その工夫が随所に見られました。

建築と環境が調和するデザイン

 

ユネスコ世界遺産に登録されているワッデン海沿いには、環境教育施設「ワッデンシーセンター」があります。

この施設の屋根にも茅が使われており、設計者と職人が何度も議論を重ね、新しい材料や納まりを開発して完成させたそうです。

従来の技術にとどまらず、新しいデザインのために工夫を生み出す姿勢に、私たちも大いに刺激を受けました。

 

また、バイキング時代の建物を再現した「バイキングセンター」では、日本の芝棟に似た屋根の納まりを見ることができ、国や地域が違っても共通点があることに驚かされました。

茅が繋ぐ交流の輪「茅リンピック」開催

 

ITSの恒例プログラムが「茅リンピック」です。各国から選ばれた5名が、茅を使ったオリジナル競技で腕を競います。

例年は「茅束を投げて飛距離を競う種目」と「枠の中に正確に投げ入れる種目」の2つですが、今回は趣向を凝らし、茅を運んで屋根の上のメンバーに投げ渡すという、新しい形の競技が行われました。

 

日本チームは全7チーム中5位という結果でしたが、どの国の職人も茅の扱いは見事なもの。選抜メンバーも応援団も、国籍や世代、性別を越えて大いに盛り上がり、会場は笑顔と歓声に包まれました。

各国の現状と日本への学び

 

研修の後半では、各国から茅葺きの現状が発表されました。

ヨーロッパでは教育制度や研究、文化財保護、持続可能性といった観点から茅葺きが位置づけられており、職人養成学校も整備されています。

材料研究も進み、デンマークでは大学でヨシのクローン栽培の研究が行われ、品種改良の議論も進められるなど、より高品質な材料を得るための工夫が重ねられていました。

 

一方、日本の茅葺きは「生活文化の中で育まれた」という成り立ちが大きな特徴です。文化的な奥深さは大きな強みですが、伝統工法を守ろうとするあまり、防火規制や法的条件への対応が難しく、普及の壁となっている現状も浮き彫りになりました。

 

「譲れない部分を守りながら、日本ならではの茅葺きをどう未来へつなぐのか」

――この問いを胸に、3人は帰国後の仕事に向き合っています。


今回のデンマーク研修では、海草葺きの復活から現代的な施工法、暮らしに根づいた茅葺き文化まで、多様な姿を学ぶことができました。

効率的で合理的なヨーロッパの工法は大いに参考になりますが、それをそのまま取り入れるのではなく、日本の自然や文化にふさわしい形で生かしていくことが大切です。

 

現場で手を動かす職人として、そして文化をつなぐ担い手として、今回の学びはこれからの仕事に確実に生きていきます。