
梅雨入り前の陽射しが田んぼを照らす6月上旬、今年も私たちの田植えの季節を迎えます。
水を張った田に苗を植えるこの営みもまた、茅葺と同じく、自然とともにある暮らしの一部です。
私たちは毎年、自分たちの田んぼで収穫した籾を使い、育苗から手がけています。 土地に合った種をつなぎ、この土地の気候や土に寄り添いながら育てることが、健やかな稲を育む第一歩だと考えています。苗の成長を見守りながら過ごす日々は、自然と向き合う感覚を取り戻す大切な時間でもあります。
ちょうどこの時期は、二十四節気のひとつ「芒種(ぼうしゅ)」にあたります。 「芒(のぎ)」とは、稲などイネ科の植物の穂先にある針のような部分のこと。 芒種は、そうした穀物の種まきや田植えに適した時期とされ、昔から農作業の目安となってきました。こうした昔ながらの暦には、きっと何かしらの理由があると考え、自然のリズムに従いながら、今年もこの時期に田植えを行います。
現代では、人々の休日やスケジュールに合わせて、5月の連休中に田植えを済ませてしまうことも多くなりました。 けれど私たちは、人間の都合よりも、苗の育ち具合や気候の変化と対話しながら、田植えの時期を決めています。 焦らず、急がず。自然のリズムに歩調を合わせることが、丈夫な稲を育て、やがて力強いエネルギーを持ったお米となって返ってくると信じているからです。
私たち茅葺職人は、体が資本です。 全国各地への出張も多く、慌ただしい毎日ですが、どこへ行くにも、自分たちで育てたお米を持参します。 自然の恵みをふんだんに取り込んだお米を食べることで、体の内側からエネルギーが湧いてくるのを感じます。 だからこそ、この米作りにも細心の注意とこだわりを持って取り組んでいます。
このお米づくりもまた、茅葺の営みとつながっています。 茅葺仕事で出た茅くずを肥料代わりに使い、無肥料・無農薬で育てた稲は、やがて屋根に使う稲藁としても活かされます。 自然から預かった恵みを無駄なく使い切り、また次へとつないでいく——。 そんな小さな循環を守ることも、私たちの大切な仕事のひとつです。
季節の声に耳をすませながら、今年もまた、田んぼに苗を植えていきます。 そのひと株ひと株が、やがて稲となり、屋根となり、そして肥料となってこの田に戻ってくる——。 そんな自然の循環を思い描きながら、秋の収穫に向けての日々が始まります。
私たちのお米へのこだわりについては農業部門ページをご覧ください。